やったという達成感を!
小学校高学年~中学生のやる気を養う

① 達成動機の満足

 今回は小学校高学年から中学生の「やる気」について考えます。

 「やる気」育成の心理学的な手順の大筋は、どの年代でも共通で、まず気持ちが向くこと、次にやってみること、そして「やった」という満足感を味わうことです。ただ違うのは、何がその満足感を与えるかです。小さい子の場合、いい子アイデンテイティ、つまり「私はいい子」という自己認識が満足につながりますが、思春期ごろになりますと、一人前になろう、自分で決めようという気持ちが育っています。それで、ただいい子というのでなく「私はできる」という達成感、有能感が大事になります。そういう達成感を求める心のはたらきを達成動機と言います。容易なことをやって褒められても余りうれしくありません。何か自分が有意義だと思えることを、努力してやり遂げて「やったぜ」と自分を褒めてあげられる、これが達成動機の満足です。

 ② やる気が出ないのは

 やる気になれないというのは、仕事や課題が達成動機にうまくアピールしないのです。そうなりやすい条件をあげてみましょう。

一、「どうせだめだ」と思う。

 実は私は、中学生のころ体育の鉄棒が苦手で、始めは頑張ったのですが不器用でうまくいかず、自分に対する言い訳のように「そんなことが出来ても何になる」などといううちに、意欲を失ってしまったのです。「負け癖」です。心理学ではこれを学習性無力感といいます。

二、チャレンジがない。

 逆に課題が易しすぎると、出来ても「やったぜ」という気持ちが起こりません。出来て当たり前だと思っていると、達成感は起こりません。

三、ギャラリーがいない。

 達成動機の純粋な姿は、褒められないでも褒美がなくても、やり遂げることに満足を感じるのですが、実際には、本当によくやり遂げたかどうか、すぐには実感できないことが多いのです。ホームランを打った瞬間、まだボールが場外に飛び出す前に「やったぜ」感を増幅してくれるのは観衆のざわめきです。その場にいれば勿論、いないでも「よかったね、よくやったね」と喜んでくれる人がいることは、達成動機のエネルギー源です。

四、相性が悪い。

 思春期になりますと、自分の特質を意識します。それだけにどうしても好きになれない教科や課題ができます。無理にやらせようとすればますます嫌気がさします。いやなことを無理強いするより、まず好きなことから入って、そこでの達成感が根を広げてゆくのを期待することではないでしょうか。

azuma
東 洋
1926年東京都生まれ。1949年、東京大学心理学科卒。1960年、米国イリノイ大学大学院博士課程修了。元日本心理学会理事長。東京大学名誉教授。全教研顧問。専門は発達心理学、教育心理学。高校・大学を通じボート部で舵手をつとめ、おかげで子ども時代から中学まで病弱だったが「いつの間にか丈夫になった」という。趣味は短歌鑑賞と毎朝のトイプードルとの散歩。2010年、長年教育に携わった功績から瑞宝中綬章を叙勲。2012年、日本心理学会より国際大賞を受賞。